乳腺腫瘍は、特に中高齢の犬や猫によく見られる病気で、乳腺組織に生じる腫瘍を指します。すべての乳腺腫瘍が悪性（がん）であるわけではありませんが、犬の場合は約50％が悪性で、猫においては80％から90％が悪性といわれています。
良性の腫瘍であれば大きな健康問題にはなりませんが、悪性の場合は病気の進行が早く、他の臓器やリンパ節への転移を起こしやすいため、早期発見・早期治療がとても大切です。

今回は犬や猫の乳腺腫瘍について、原因や治療方法、そして予防方法について解説します。

■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

 

原因

乳腺腫瘍の発生には、性ホルモンであるエストロゲンが大きく関わっていると考えられています。特に、未避妊のメスの場合、年齢を重ねるごとに発症のリスクが増すため、早期に避妊手術を行うことが推奨されます。
乳腺腫瘍が発症してからの避妊手術では、病気の予防にはほとんど効果が期待できないので、早めに手術を受けることが重要です。

 

症状

犬は通常左右に5対、猫は左右に4対の乳腺を持っており、乳腺腫瘍はそれらにしこりとして現れます。多くの場合、しこりは痛みを伴わないため、犬や猫も日常生活に支障をきたすことなく過ごしています。
しかし、しこりが成長すると、表面が自壊し、出血や痛みが現れることがあります。これが進むと、元気や食欲がなくなり、痩せてくるといった全身状態の変化が見られるようになります。

少数ではあるものの、特に炎症性乳がんの場合は進行が早く、潰瘍や壊死を伴うことがあります。

 

診断方法

乳腺のしこりを発見した場合、まずはそのしこりだけでなく、体の他の部分にもしこりがないか、またリンパ節に腫れがないかを丁寧にチェックします。
その後、細胞診といって、しこりから細い針を使って細胞を吸引し、その細胞を顕微鏡で観察する検査を行い、腫瘍にどういった細胞が含まれるかを調べます。
加えて、レントゲン検査やエコー検査を行い、肺やお腹の中に転移がないかどうかを確認します。

ただし、これらの検査だけでは確定診断ができないため、最終的には手術を行い、取り除いた腫瘍の組織を詳しく検査することによって、確定診断を下します。

 

治療方法

乳腺腫瘍の治療は、その性質や進行度に応じて治療方法が異なりますが、手術が中心となります。

しこりが一カ所だけでサイズが小さい場合は、そのしこりの部分のみを局所的に切除することもあります。
しかし、複数のしこりが存在する場合や悪性の可能性が高い場合には、残った乳腺にまた腫瘍ができてしまうことがあるため、脇の下から内股にかけて、乳腺全体を切除します。

また、組織検査で悪性度が高いと判断された場合や転移が確認された場合は、手術に加えて化学療法を併用することがあります。化学療法は腫瘍の成長や転移したがん細胞の増殖を抑えることを目的としています。

さらに、未避妊の場合は、再発や子宮・卵巣の疾患を予防するために、乳腺腫瘍の治療と同時に避妊手術を行う場合もあります。

 

予防法やご家庭での注意点

乳腺腫瘍は性成熟に伴い発生リスクが高まるため、避妊手術が最も効果的な予防法です。
犬では、初回の発情前に避妊手術を行うと、腫瘍の予防効果は99.5%に達します。さらに、2度目の発情期前までに手術を行えば、その予防効果は92%となります。
しかし、2度目の発情期後に手術を行った場合は予防効果が74%まで低下してしまうため、避妊手術は遅くとも2度目の発情期までに行うことが望ましいとされています。

このように、早期の避妊手術が乳腺腫瘍の発生を大きく減少させる最も効果的な方法である一方で、飼い主様には愛犬や愛猫の体を日常的に触り、異常がないか定期的にチェックすることも推奨されます。

 

まとめ

犬と猫の乳腺腫瘍は、早期発見と適切な治療が行われれば、良好な予後を得ることが可能です。
特に避妊手術は乳腺腫瘍の予防に非常に効果的で、この手術を適切なタイミングで行うことによって、発症リスクを大きく減少させることができます。
愛犬や愛猫の健康管理に留意し、定期的な健康チェックを心がけましょう。

 

■関連する病気はこちらで解説しています
・犬と猫の子宮蓄膿症について｜高齢で避妊手術を行っていない犬や猫に多く見られる

 

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