前十字靭帯断裂は、特に中型犬から大型犬によく見られる整形外科的な問題です。前十字靭帯断裂を発症すると、愛犬の生活のQOLを著しく低下させる可能性があります。

この記事では、前十字靭帯断裂の詳細、症状、原因、診断方法、治療方法、そして予防法について詳しく解説していきます。

 

■目次
1.犬の前十字靭帯断裂とは?
2.症状
3.原因
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法やご家庭での注意点
7.まとめ

 

犬の前十字靭帯断裂とは？

前十字靭帯は、犬の膝関節内部にある重要な靭帯の一つです。
この靭帯は、大腿骨（太ももの骨）と脛骨（すねの骨）を結びつけ、膝関節の安定性を保つ重要な役割を果たしています。

前十字靭帯が断裂すると、膝関節が不安定になり、犬は歩行時に痛みを感じたり、脚を引きずったりするようになります。この状態を放置した場合は、関節炎や半月板損傷などの二次的な問題を引き起こす可能性があります。

前十字靭帯断裂は、部分断裂と完全断裂の2つのタイプに分けられます。部分断裂の場合、症状が軽度であったり、断続的に現れたりすることがありますが、適切な治療を行わないと完全断裂に進行する可能性があります。

 

症状

前十字靭帯断裂の症状は、断裂の程度や進行状況によって異なります。
以下が主な症状です。

・突然の跛行（はこう：正常に歩けない状態）：特に運動後や長時間の休息後に顕著になります。患部の脚をかばう歩き方（体重をかけることを避ける）などをします。
・膝関節の腫れや熱感：触ると痛がる場合があります。
・座り方の変化：患部の脚を外側に向けて座ることがあります。
・活動量の減少：痛みを避けるため、運動を控えるようになります。
・立ち上がりや階段の上り下りの困難：特に後ろ脚での踏ん張りが難しくなります。

これらの症状は、必ずしも前十字靭帯断裂特有のものではありません。しかし、これらの症状が見られる場合は、できるだけ早く獣医師の診察を受けるようにしましょう。

 

原因

前十字靭帯断裂の原因は複合的で、以下のような要因が関与していると考えられています。

・加齢：年齢とともに靭帯が劣化し、断裂のリスクが高まります。
・肥満：過剰な体重が膝関節に負担をかけます。
・運動不足：運動不足は関節の健康維持に支障をきたすことがあります。
・遺伝的要因：特定の犬種では発症リスクが高いとされています。
・急な動作や過度な運動：ジャンプや急な方向転換などの際に断裂することがあります。
・膝の構造的問題：膝蓋骨脱臼などの影響から断裂することがあります。
・ホルモンバランスの乱れ：避妊・去勢手術済みの犬で発症リスクが高まる可能性があると言われています。

また好発犬種として大型犬種（ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなど）や、小型犬でも活発な犬種（ジャック・ラッセル・テリアなど）で多く見られます。

 

診断方法

犬の前十字靭帯断裂の診断は、複数のステップを通じて慎重に行われます。
まず、症状の発現時期や経過について飼い主様から詳しくお話を伺います。これにより、愛犬の状態を総合的に把握します。

次に、愛犬の歩き方を注意深く観察する歩様検査を行い、その後、膝関節の触診を行います。特に「引き出し徴候」と呼ばれる検査で、膝関節の不安定性を確認します。

さらに詳しい診断のため、多くの場合レントゲン検査を行います。これにより骨の状態や関節の位置関係を確認できます。また、必要に応じて、超音波検査やMRI検査を追加することもあります。これらの検査では、靭帯や周囲の軟部組織の状態をより詳細に観察できます。

場合によっては、関節鏡検査を行うこともあります。小さな切開から内視鏡を挿入し、関節内部を直接観察する方法です。

これらの診断方法を組み合わせることで、獣医師は前十字靭帯断裂の有無やその程度を総合的に判断し、最適な治療法を提案します。愛犬の状態に不安がある場合は、早めに獣医師に相談することをおすすめします。

 

治療方法

前十字靭帯断裂の治療法は、犬の大きさ、年齢、全体的な健康状態、そして断裂の程度によって異なります。治療は大きく分けて、保存療法と外科的治療があります。

保存療法は主に小型犬や高齢犬、または手術が難しい場合に選択されます。この方法では、安静と運動制限を基本とし、消炎鎮痛剤の投与や体重管理、そしてリハビリテーションを組み合わせて行います。

一方、外科的治療は特に中型犬から大型犬、若い犬、活動的な犬に推奨されます。外科的治療にはいくつかの方法があり、獣医師が最適な手術法を選択します。

膝関節外手術には下記の方法があります。

<脛骨高平部水平化骨切り術（TPLO法）>
脛骨の角度を変えて関節の力学的バランスを改善する方法

<脛骨粗面前進化術（TTA法）>
脛骨粗面を前方に移動させて関節の安定性を高める方法

<関節外法（ラテラル・スーチャー法）>
人工靭帯で関節を外側から固定する方法

どの治療法を選択しても、その後の適切なケアとリハビリテーションが非常に重要です。通常、手術後は4〜6か月程度かけて徐々に活動量を増やしていきます。この期間中、獣医師の指示に従って適切な運動制限とリハビリを行うことで、愛犬の回復を促進し、再発のリスクを減らすことができます。

また、治療中および治療後の痛みのコントロールも重要です。適切に鎮痛剤を使用することで、愛犬の快適性を確保します。さらに、関節の健康をサポートするためのサプリメントを使用することもあります。

治療法は最終的に何を選択するかは、獣医師との十分な相談の上で決定します。愛犬の生活の質を最大限に高め、長期的な健康を維持することを目標に、最適な治療計画を立てていきます。

 

予防法やご家庭での注意点

前十字靭帯断裂を完全に予防することは難しいですが、リスクを軽減するための方法はあります。

まず、適切な体重管理が非常に重要です。肥満は膝関節への負担を増加させるため、バランスの取れた食事と適度な運動で理想体重を維持することが大切です。定期的な運動は筋力と関節の柔軟性を維持するのに役立ちます。しかし、ジャンプや急な方向転換など、膝に大きな負担がかかる動作は控えめにするように管理しましょう。

また、ご家庭での環境整備も大切です。滑りやすい床材は避け、クッション性のある床材を選ぶことで、愛犬の関節への負担を軽減できます。階段の上り下りには特に注意が必要で、必要に応じて抱っこやサポートを行いましょう。

これらの注意点を日常生活に取り入れることで、愛犬の膝の健康を守り、前十字靭帯断裂のリスクを減らすことができます。

 

まとめ

犬の前十字靭帯断裂は、治療と管理によって症状の改善が期待できる病気です。しかし、そのためには早期発見と適切な治療が重要であり、放置すると関節炎などの二次的な問題を引き起こす可能性があります。
愛犬の歩き方や活動量に変化を感じたら、躊躇せずに獣医師に相談しましょう。日頃から適切な体重管理と運動を心がけ、愛犬の膝の健康を守ることが大切です。

私たち獣医師は、愛犬とその飼い主様に寄り添い、最善の治療方針を一緒に考えていきます。前十字靭帯断裂に関して不安や疑問がありましたら、いつでもお気軽に当院にご相談ください。

 

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