2026年7月24日

「最近よく吐くけれど、毛玉っぽいから大丈夫かな」
「食べたものを吐くことはあるけれど、元気はあるから様子を見よう」
猫では嘔吐が比較的よく見られるため、このように考える飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、慢性的な嘔吐の背景には、腫瘍などの治療が必要な病気が隠れていることもあります。
今回は、吐血をきっかけに詳しい検査を行い、消化器型リンパ腫が見つかった猫の症例をご紹介します。
今回ご紹介する症例
・動物種:猫
・年齢:6歳
・性別:メス(避妊済み)
・主訴:吐血
・診断:消化器型リンパ腫(中〜大細胞型B細胞性リンパ腫)
・治療:抗がん剤を組み合わせた化学療法
・現在の経過:完全奏効を維持し、再発なく経過
来院までの経緯と診察時の様子
「血を吐いた」とのことで来院されました。飼い主様のお話では、以前から未消化のフードを吐くことはあったものの、血が混じった嘔吐は今回が初めてだったそうです。
診察では全身状態に大きな異常は認められず、一般血液検査やレントゲン検査でも、原因となるような異常は確認できませんでした。
一方で、腹部超音波検査では胃壁の肥厚・不整(胃の壁が通常より厚くなり、表面にでこぼこした変化)が確認されたため、まずは胃炎の可能性を考え、胃の動きを整える薬や胃粘膜を保護する薬、消化器用療法食による治療を開始しました。
しかし、約3週間治療を続けても、間欠的な嘔吐や吐血は改善せず症状が続いていたことから、慢性的な嘔吐の原因を詳しく調べるため、内視鏡検査を行うことにしました。
検査で確認したこと
内視鏡検査では、胃粘膜に不整な増殖性病変(正常とは異なる組織が増えて盛り上がった部分)が確認され、その部分が出血しやすい状態でした。

内視鏡検査で確認された胃の増殖性病変
そこで原因を詳しく調べるため、胃と十二指腸から組織を採取し、病理組織検査と免疫染色(細胞の種類を詳しく調べる検査)を行ったところ、胃に発生した中〜大細胞型B細胞性リンパ腫(消化器型リンパ腫)と確定診断されました。
また、十二指腸では軽度の慢性リンパ球形質細胞性十二指腸炎も認められました。これは、十二指腸に軽い慢性的な炎症がみられる状態です。
今回の症例では、血液検査やレントゲン検査だけでは原因を特定することはできませんでしたが、内視鏡で病変を直接確認し、組織を詳しく調べたことで確定診断につなげることができました。
治療・処置の内容
診断後は、CHOPプロトコールによる多剤併用化学療法を開始しました。
CHOPプロトコールは、複数の抗がん剤を計画的に組み合わせて行う標準的な治療法です。本症例でも、副作用に十分注意しながら、計画に沿って治療を進めました。
治療後の経過
治療開始後は、嘔吐や吐血などの消化器症状が改善しました。
また、治療開始時には30,800/μLと高値だった白血球数も、一時的に38,000/μLまで上昇したものの、3週目以降は正常範囲まで回復しています。
その後は25週目まで完全奏効(Complete Response:検査上、腫瘍が確認できない状態)を維持し、現在も再発は認められず、定期的に経過観察を続けています。
今回の症例では、慢性的な嘔吐の原因を特定し、適切な治療につなげることで、症状の改善と良好な経過が得られています。
猫の消化器型リンパ腫と慢性嘔吐について
消化器型リンパ腫は、猫で比較的多く見られる腫瘍のひとつです。主な症状には、次のようなものがあります。
・慢性的な嘔吐
・吐血
・食欲低下
・体重減少
・下痢
初期の段階では、胃炎や毛玉による嘔吐との区別が難しいこともあり、「吐きやすい体質なのかな」と様子見されるケースも少なくありません。
また、食事療法や内科治療を行っても症状が改善しない場合は、内視鏡検査によって病変を直接観察し、組織検査を行うことで診断につながることがあります。
「毛玉かな」「昔から吐きやすい子だから」と感じることがあっても、症状が続く場合は、一度原因を詳しく調べることが大切です。
まとめ
今回は、吐血をきっかけに詳しい検査を行い、消化器型リンパ腫が見つかった猫の症例をご紹介しました。一般的な血液検査やレントゲン検査では異常が見つからない場合でも、内視鏡検査や病理検査を行うことで、適切な診断や治療につながる可能性があります。
八幡みなみ動物病院では、慢性的な嘔吐に対する内科治療だけでなく、必要に応じて内視鏡による精査、病理診断、腫瘍治療、その後の経過観察まで一貫して対応しています。気になる様子がある場合は、まずはお気軽にご相談ください。
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