2026年8月31日

「涙やけがなかなかきれいにならない」「いつも涙が出ている」「ときどき目を細めることがある」といった愛犬の目の症状が気になっている飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬の涙やけは、涙の量や顔のつくりなどによって起こることもあります。そのため「この子は涙が出やすい体質だから」と思われることも少なくありません。
しかし、涙が多い状態が続いている場合には、まぶたの形の異常など、治療が必要な病気が隠れていることがあります。目の表面に刺激が加わり続けていると、涙やけだけでなく、痛みや角膜の炎症につながることもあるため、原因を確認することが大切です。
今回は、右眼の流涙(涙が出続けること)と涙やけをきっかけに「眼瞼内反症」が見つかり、手術によって症状が改善した犬の症例をご紹介します。
今回ご紹介する症例
・動物種:犬(チャウチャウ)
・年齢:8か月齢
・体重:15.4kg
・主訴:右眼の流涙・涙やけ(悪化時には目を細める様子)
・診断名:右眼の眼瞼内反症
・治療内容:眼球への刺激を取り除くための眼瞼内反整復術
・現在の経過:流涙や目を細める症状が改善し、良好に経過
来院までの経緯と診察時の様子
右眼から涙が多く出ることや、涙やけが気になるとのことで来院されました。
症状が強いときには、まぶしそうに目を細める様子もみられていました。このように、光をまぶしがったり目を開けづらそうにしたりする症状は「羞明(しゅうめい)」と呼ばれ、目に痛みや違和感があるときにみられることがあります。
診察では、目に何らかの刺激が加わっている可能性が考えられたため、原因を詳しく確認するために眼科検査を行いました。
検査で確認したこと
眼科検査を行ったところ、まぶたが内側へ巻き込まれる「眼瞼内反症」が右の下まぶたに確認されました。
眼瞼内反症では、まぶたが内側へ入り込むことで、本来は眼球に触れないまぶたの表面や周囲の被毛が目に当たりやすくなります。この子も同様に、右の下まぶたや被毛が眼球に触れ、その刺激によって目の表面に慢性的な炎症が起きている状態でした。
今回みられていた流涙や涙やけも、単に涙が多い体質によるものではなく、眼瞼内反症による継続的な刺激が原因になっていたと考えられます。
この状態が続けば、炎症や痛みを繰り返すだけでなく、目の表面を傷つけるおそれもあります。そこで、症状を一時的に抑えるのではなく、原因となっているまぶたの位置を整え、眼球への刺激そのものを取り除く手術が適していると判断しました。
治療・処置の内容
今回の症例では、内側へ入り込んだまぶたの位置を整え、眼球に触れている部分や被毛による刺激を取り除くため、眼瞼内反整復術を行いました。
手術には「Hotz-Celsus変法」という方法を用い、右の下まぶたが自然な位置になるように調整しています。これにより、まぶたや被毛が眼球に触れ続ける状態を改善し、慢性的な炎症や流涙の原因そのものを取り除くことを目指しました。
眼瞼内反症では、点眼などによって炎症を一時的に抑えられても、まぶたによる刺激が続いていると症状を繰り返すことがあります。今回のようにまぶたの形が症状の原因となっている場合には、状態に応じて外科手術を検討します。
<手術後の管理>
手術後は、傷口や目を保護しながら治癒を促すため、ご家庭で次のような管理をしていただきました。
・エリザベスカラーの装着
・抗菌薬の点眼
・消炎鎮痛薬の内服
その後も傷口やまぶたの状態を確認しながら経過をみて、術後約10日で抜糸を行いました。
治療後の経過
手術後は、これまでみられていた右眼の流涙や、まぶしそうに目を細める症状が改善しました。抜糸後もまぶたの状態は安定しており、大きな問題なく経過しています。
眼球に触れていたまぶたや被毛による慢性的な刺激が解消されたことで、涙が過剰に出る原因も取り除くことができました。そのため、今後は涙やけについても改善が期待できる状態となっています。
今回の症例では、「涙が多い」「涙やけがある」という一見よくある症状から原因を詳しく調べたことで、眼瞼内反症を見つけ、根本的な治療につなげることができました。
犬の眼瞼内反症について
眼瞼内反症とは、まぶたの一部または全体が内側へ巻き込み、まぶたや周囲の被毛が眼球に触れてしまう病気です。生まれつきの顔やまぶたの構造が関係していることもあり、チャウチャウをはじめ、犬種によっては眼瞼内反症が起こりやすい傾向があります。
眼球に毛が触れると、目の表面には常に刺激が加わります。そのため、次のような症状がみられることがあります。
・涙が多く出る
・涙やけが目立つ
・目をしょぼしょぼさせる
・まぶしそうに目を細める
・前足などで目をこする
・目が赤くなる
症状が軽い場合には「少し涙が多いだけ」に見えることもありますが、刺激が長く続くと慢性的な角膜炎を起こしたり、角膜に傷がついて角膜潰瘍につながったりすることもあります。
涙やけがあると、どうしても被毛の着色そのものに目が向きやすくなります。しかし、大切なのは「なぜ涙が増えているのか」を確認することです。
涙やけの原因はひとつではありません。今回のようにまぶたの構造が原因になっている場合には、点眼などで一時的に症状を抑えるだけでは十分な改善が得られないこともあります。
眼瞼内反症の程度や年齢、目の状態などを確認したうえで、必要に応じてまぶたの位置を整える外科治療を行うことで、眼球への刺激を取り除き、症状の改善が期待できます。
まとめ
今回の症例では、右眼の流涙や涙やけの背景に眼瞼内反症があり、まぶたの位置を整える手術を行うことで、目への慢性的な刺激を取り除くことができました。
涙やけは見た目の変化として気づきやすい一方、その理由までご家庭で判断することは簡単ではありません。特に、涙が多い状態に加えて目を細める、こするといった様子があるときは、まぶたや目の表面に異常がないかを調べてみることが大切です。
八幡みなみ動物病院では、こうした目の症状について眼科検査を行い、状態に応じて外科治療や術後の管理まで対応しています。気になる症状が続いている場合にはぜひ一度ご相談ください。
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